EDM

【連載】「VS, x, ft., edit, &」▷F***** CRAZY!!

VS, x, ft., edit, &

1.公認のコード

テレビ番組で司会が失言をしたとする。すると、編集側はそこに「音」をかぶせる。マドンナがターナー賞のセレモニーで言ってしまった瞬間が生放送の場合、音のかぶせよう、そしてその発言を隠すという点で救いようがないだろう。しかし録画され、記録されて放送される場合に、その発言を音で処理することが可能だ。このような場合、言葉はではなく「ピー」というあの「音」が司会者の放送禁止用語に乗せられる。日常生活で放送禁止用語を言う時に「ピー」と口でまねをすることもあるが、それは「”ピー”と言っている」だけであり、ピーという音ではない。文字通り、ピーを読んでいるだけである。近年ではテキストでの表現においても、このような音がかぶせられる。特にSNSなどの環境でテキストとしてつぶやくことが増えてからは、口に出す言葉を文字に移す機会が増え、その際にダイレクト加減を調整している。よく使われる「F***!」や「S***!」という言葉の一部を隠しているのは、言葉として使われない、特殊文字である。それは「ピー」の音と同様である。それを何も読みはしない。またここで「*」はなにも暗号メッセージのように同じアルファベットとは限らない。そして、読みとられるのを未然に防ぐための暗号とは異なり、既にそこに何が隠されているか多くの人が知っている。それは隠されてはいるものの、既に何が隠されているか周知の事実に基づいている。一種の公認のコードと言えるだろう。

Madonna, Turner Prize Speech 2001

Tiësto & Dzeko, Crazy (Tiësto Big Room Mix), 2017

2.音と声、そして****

このピーという音は、EDMにも非常にマッチする。頻繁に耳にするEDMの歌詞には、放送禁止用語と扱われながら、その言葉が頻繁に登場する。それに重なるように、その言葉を隠す「ピーという音」がEDMと非常にマッチすることは意外なことでもなんでもない。その一つの理由に、EDMで歌詞までもが音として扱われる点にあるだろう。サンプリングをはじめ、EDMでスピードアップされた声や、そのトーンを調整し、また繰り返されるフレーズは、すでに歌詞ではなく音に近くなっている。Tiësto & Dzekoの〈Crazy (Tiësto Big Room Mix)〉(2017)を聞くと、Crazyという単語の様々なトーンやCrazy-y-y-yという引き延ばされ方は、すでに歌詞としてのフレーズではなくなっている。そして、Instrumental Breakの直前に、「Get You F***** Crazy!」というフレーズが聴こえるのだが、ここで「F*****」は「ピー」の音で消されている。口で歌った歌詞や掛け声は、先ほど述べたように「音」となることで、「ピーという音」となんら違和感を感じさせない存在になっている。それは口でピーと入れるわけでもなく、歌詞の中につっこまれたInstrumentとしての音でもない。なによりも興味深いのは、Tiëstoがリリース前にライブ・セットでかけたとき、例の放送禁止用語がそのままだった点である。その掛け声はそのままでも、しかし、掛け声や歌詞が音に近くなるEDMでは「ピー」という音で処理されたとしても「*****」に自然にマッチするようになる。

 

Tiësto & Dzeko, Crazy, (The Flying Dutch Eindhoven, Strijp-S Eindhoven, Netherlands 2016.06.04.)

3.編集作業としての****

そしてもう一点は、それが先ほど述べたような、生放送では救いようのない、つまり後の編集作業によるものという点である。先ほどの〈Crazy〉の例と同じように、Firebeatzの〈Trigga Finga〉(2016)をここでは挙げたい。この曲では途中で「ピー」という音が、よく聞き取れなくなり、ほとんど「音に近い歌詞」に重ねられている。この曲はおそらくRedman & Method Manの〈How High〉(1996)の一部を用いたDJ Isaac & DJ The Viperの〈Trigga Finga〉(1999)にインスピレーションを受けたと考えられる。〈How High〉の歌詞を読むと、”When I raise my trigga finga all ya’ll ni**az hit the deck-deck”と、放送禁止用語(ni**az)が用いられているのが確認できる。その部分にFirebeatzは音をかぶせている。それは生放送では到底行えない、つまり録音された後になってようやく手の加える可能性が出来ることを表している。放送禁止用語に音をかぶせることもそうだが、DJ Isaac & DJ The Viperが、そしてFirebeatzが〈How High〉の音をサンプリングした点もまた、記録物が編集できた、つまりポスト・プロダクションとしての可能性によるものである。事後的に手を加えることの出来る可能性は記録を前提とし、それによってサンプリングが可能になり、音を追加する可能性が切り拓かれる。

(editor K4ø)